アニメやゲームの世界では、「シャーマン」という職業のキャラクターをたびたび見かけます。巫女さんも多いですよね。
しかし、実際のシャーマンやシャーマニズムについてはよく知られていません。シャーマニズムというと、憑霊や宗教、予言者など非科学性で少しあやしげで占いや怖い印象を受けるもの。
だけど、宗教人類学や心理学などから研究しても超自然的存在でいまだにアメリカなどで医療やカウンセラー的な役割を果たします。
今回は、シャーマンに魅力を感じ独学で学んだ私の意見もあわせて、シャーマンを中心としたシャーマニズムの現代・過去やおすすめの書籍やDVDやアニミズムとの違いもお伝えします。
シャーマニズムとは
シャーマニズムとは、特別な能力をもったシャーマンによって成立している原始宗教のひとつ。
シャーマンは神や魂、精霊たちとコミュニケーションできる能力をもっています。夢や憑依などさまざまな方法でメッセージを受け取って伝えたり、祭祀を執りおこなったりする役割も。
宗教学者であるエリアーデは、シャーマンを
- 「霊媒型・憑霊型」
- 「脱魂型」
大きくふたつのタイプにわけています。
シャーマニズムは全世界の各地に存在し、それぞれがその土地で根づいて独自の発展を遂げたもの。それらは一見バラバラのようですが、実は共通の要素がいくつも重なりあっているのです。
シャーマンの種類
シャーマンは世界各地に存在しています。どんな違いがあるのかみていきましょう。
韓国
韓国のシャーマンは「巫堂(ムーダン)」。
ムーダンがテレビに出演することはほぼありません。しかし、シャーマニズムが盛んな国であり、シャーマンの数が日本より圧倒的に多いです。「クッ」とよばれるムーダンの儀式は大掛かりで、多額のお金がかかるのが特徴。
ムーダンには四柱推命の勉強が必須とされており、占いを併用して神からの口寄せもおこなうためパワーがより確実となるのです。
モンゴル
モンゴルのシャーマンは「ブー」。男性のシャーマンは「ザイラン」、女性のシャーマンは「オットガン」とよばれることも。
古くからシャーマニズムは、チベット仏教との対立を経験しながらも少しずつ混じりあい、信仰が続いてきました。モンゴルのシャーマニズムは「白」と「黒」にわかれ、悪霊を祓ったり病をいやしたりするのが「白」、誰かに呪いをかけるときは「黒」。
太鼓を叩いて詩を口ずさみながらトランス状態に入り、口寄せをおこなうのが特徴です。
アメリカ
アメリカ先住民のインディアンはアニミズムを信仰し、そこからシャーマニズムが発展しました。
それぞれの部族に「メディスンマン」とよばれる人物が、医療やカウンセラー的役割を果たします。メディスンマンの中でも、神や精霊からのメッセージを受け取ることができる人はシャーマンとよばれるのです。
シャーマンとなるには自分のもっている能力を一族のために使い、物事を動かす力をもっていることが必須条件。
アフリカ
アフリカでは、今でも呪術が信仰されています。西洋医学よりも呪術医のほうが信頼されることも。
死生観も独特であり、死を畏怖してなるべく避けようとする傾向があります。
インド
インドでは、占いやシャーマニズムが日常生活に息づいています。
シャーマンが患部から病の原因を吸い出し、取りのぞく技法が使用されることも。
北インドのラダックでは、ラモとよばれる女性シャーマンと、ラバとよばれる男性シャーマンがその土地の神を憑依させて病気の治療をおこなっています。
シャーマニズムから医学として発展したのがアーユルヴェーダ。インドの伝統医学として人々の生活とつながっているのです。
キルギス
キルギスの大部分ではイスラム教が信仰されています。しかしイスラム化した時期がおそかったこともあり、一部ではシャーマニズムなどの自然信仰が残されています。
シベリア
シベリアはシャーマニズム発祥の地といわれています。
シベリアのツングース系民族にとってシャーマニズムは原始宗教であり、ずっと信仰されてきました。「シャーマン」という言葉は、シベリアのツングース系民族の言語に由来しています。
あらゆる自然の事象に精霊が宿り崇拝する概念は、日本の神道にも通じるもの。とくに、太陽の神を大いなるエネルギーとして崇める姿勢は、神道と似通っていますね。
チベット
チベットにはさまざまな種類のシャーマンがいます。
基本的には、神霊が憑依する「霊媒型・憑霊型」が主流です。一部には「脱魂型」もみられることも。
チベットではかつて、患者の身体から病気を吸い出して治療する医者の役割を果たしたシャーマンが存在していました。しかし、現在ではまだ確認されていません。
トルコ
トルコの遊牧民が大切にしてきたのが自然信仰。
イスラム化する前はシャーマニズムが盛んであり、とくに動物を神聖なものとみなしてきました。
トルコの織物「キリム」は、シャーマニズムとイスラム教の融合の結晶ともいわれます。
南米
幻覚がみれる植物を使用して儀式を執りおこなうのは、南米におけるシャーマンの特徴。
「アヤワスカ」とよばれる植物には、嘔吐と幻覚をみせる作用があります。これによって意識が身体から離れたような感覚になり、宇宙や別次元がみえることも。
人によっては嘔吐や下痢に見舞われる場合もありますが、儀式が終わった後は憑きものが落ちたようにスッキリした気分に。
南米のシャーマンには植物の知識が必要不可欠です。
ネパール
ネパールのシャーマニズムは高度なアニミズムから発展し、自然界のあらゆる事象に宿る精霊を崇める自然信仰。
人間と神の世界をつなぐ祈祷師としての役割を果たし、患者の病を取り除いていやします。首都カトマンズでも、この祈祷的セラピーは広くおこなわれているのです。
神話や言い伝えが数多く残されており、日本の神話や神道に通じる点も。
ヨーロッパ
ヨーロッパではシャーマンは魔女としてあつかわれ、「脱魂型」が多くみられました。
伝統的な魔女は古い信仰にもとづく呪術者。植物を使用した治療などをおこない、人々からも慕われたのです。
ロシア
ロシアにもシャーマニズムが多く存在しています。
例えば、ロシア極北地方の先住民族であるネネツ人は、シベリアのシャーマニズムと同じく自然信仰。シャーマンは木に宿る精霊と交信し、トナカイや魚の肉を供えます。
ネネツ人にとって、トナカイは生活に必要不可欠で重要なもの。ネネツ語における「トナカイ」とは「生活を与える動物」という意味なのです。
また、トゥヴァ共和国ではチベット仏教が主流になりながら、今でもシャーマニズムが受け継がれています。
家族の健康や子供の成長、富や幸福など日常生活とは切っても切り離せない関係です。
日本のシャーマン
日本にもシャーマンは存在します。
有名なシャーマンといえば青森のイタコ、沖縄のユタなどがいます。イタコは死者や先祖の霊を憑依させて言葉を告げるもの。ユタは口寄せで神からのメッセージを受け取っています。
どちらも、悩みを抱えたり病に苦しんだりする人々をいやし、助けになってくれる存在です。
歴史
シャーマニズムとはもっとも古い原始宗教。シャーマンを中心に自然界のすべてを崇め、信仰されてきました。
日本で有名なシャーマンといえば「卑弥呼」です。彼女が女王として治めていた邪馬台国は、シャーマニズムによって統治された国。「魏志倭人伝」には、「鬼道に事えて、よく衆を惑わす」と記されており、卑弥呼が不思議なパワーで人々をまとめであろうことがうかがえます。
しかし文明の発展にしたがって、シャーマニズムは少しずつ衰退していくことに。しかし完全に消えることはなく、現代でもごく一部の人々がこれを継承しています。シャーマニズムは時を超え、脈々と受け継がれているのです。
現代のシャーマン
現代のシャーマンとしては、前述したイタコやユタなど。数は少なくなりましたが、彼女たちを頼る人はまだまだ多く、必要とされています。
カウンセラーなどの人をいやす仕事や、インスピレーションにすぐれた音楽家や画家などの芸術家にシャーマンの素質があることも。
世界的にみるとモンゴルにもシャーマニズムが残っていますが、もともとの狩猟・牧畜を支える信仰形態はうすれつつあります。
都市部でのシャーマニズムは新興宗教的な意味合いが色濃くなり、社会的問題にまで発展。シャーマンとしての社会的地位を手に入れると、社会での上下関係が逆転することも。
また、50年ほど前にアメリカなどで新しくはじまった動きは、都市部でもシャーマニズムを発展させることを可能にしました。世界中のシャーマニズムに共通する部分を中心に取り入れられ、現代社会の生活になじんでいるのです。
現代のシャーマンは、人間の世界とスピリチュアルな世界をつないで、バランスを整える役割を果たしています。
シャーマニズムを学べる書籍やDVDを紹介
シャーマニズムについてくわしく学べる書籍やDVDを紹介します。
ドキュメンタリー「盲目の国のシャーマンたち」[DVD5枚組+CD2枚組]
ミヒャエル・オピッツによる映像 ネパールの北西、辺境の地域での祈祷師信仰(シャーマニズム)を18か月にわたって取材した、民族学者ミヒャエル・オピッツによるドキュメンタリー映像。彼は1965年に初めてネパールを旅行し、この地の人々の生活に感銘を受け、シャーマニズムの研究を始めます。彼は地域に根付く宗教と、病を治す祈祷師の存在を映像に収め、1980年に4時間のドキュメンタリー映像にまとめたのがこの「盲目の国のシャーマンたち」です。第1部では、祈祷師たちの呪いの儀式や、村人の生活風景、第2部では師匠から弟子へと伝えられるシャーマンの知識が描かれています。/ミヒャエル・オピッツによるドイツ語版とウィリアム S.バロウズ(“裸のランチ”で知られるアメリカの小説家)による英語版の語りが収録されています。
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シャーマニズムの世界 (講談社学術文庫) 文庫 – 1992/12
個人的には、世襲制の司祭層をのぞいて、憑霊からシャーマンという存在になっていく人々の中には今でいう精神疾患をもつ人々もかなりいたのではないかと思う。
それらの存在を「病」として治療対象にするのではなく、社会の中でひとつの職としてのシャーマンにしていく、それだけの精神的余裕がかつての世界にはあったのでは、と感じている。
そして同時に、病や災害といった、人間の力ではどうにもできない現象の原因を神に求め、その神との交信をおこなう存在を求めていた社会の要求に、シャーマンの存在は欠かせないものだったろう。
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神と人のはざまに生きる―近代都市の女性巫者 単行本 – 2009/5/22
筆者のアンヌブッシイ氏もとても好意的で、明治、大正、昭和、平成を神憑のお代として生きた女性のありのままが語られます、宗教法人として会を広げるような布教活動もせず、1、宗教家として神様を信じ、信者たちとかかるエピソードはある種ほほえましくもあります、平成3年まで日常の宗教家として人生を全うした一人の女性の物語として興味深く読みました。
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神女(シャーマン)誕生―徳之島に生まれた祝女(のろ)2万6000日の記録 単行本
シャーマニズムとは、はるか太古の時代に自然界の森羅万象を畏れ敬い、絶対的なものとして捉えた人々のひとつの心性ともいえるものです。
大自然は生きとし生けるものに空気を与えたり与えなかったりという差別はしません。
自然の恵みの中に、自然そのものとして存在し、その波動を自らの内に受け入れて生きていく。そのような人間の最古層の能力のひとつがシャーマニズムと呼ばれるものです。
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シャーマニズム 上 (ちくま学芸文庫) 文庫 – 2004/4/8
エリアーデの宗教論での、シャーマニズムを味わってください。
シャーマンの学術的な記録といえるこの本は、とくにシベリアをはじめとする全世界のシャーマンに関しての記録が要約されていて、シャーマンを研究している宗教家にはもちろん、「シャーマンって何?」と思っている読者にその欲求を十分に満たしてくれます。
シャーマニズムが、どのように構築されているのかが理解できると思います。
それにしても、この値段でエリアーデが手元にやってくるとは…。驚きものです。
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シャーマニズム (「知の再発見」双書162) 単行本 – 2014/2/20
主としてシベリアなど北方系のシャーマンに取材している。
シャーマンの体は外界に開かれており、そこに精霊を通すことで力を発揮するという指摘が興味深かった。
写真など図版が豊富で、見ていると引き込まれるものがある。
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ガダラの豚 1 (集英社文庫) 文庫 – 1996/5/17
この本、続きモノなんですね。
呪術、新興宗教、超能力、超常現象などが出てきます。
否定派が今のところ有利な状況です。
ただ、どうも続きでどんでん返しがありそうな予感がします。
登場人物が個性的で面白いです。
こちらの書籍もシャーマニズムに触れており、小説として読めるのでおすすめです。
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シャーマンと霊媒師の違い
霊媒師とは、神霊や死者の霊と人間との媒介をする人物のこと。
シャーマンには5つの種類があり、
- 「脱魂型」
- 「精霊統御者型」
- 「霊媒型・憑霊型」
- 「予言者型・霊感型」
- 「見者型」
にわかれます。
したがって、霊媒師はシャーマンの一部といえるのです。
シャーマニズムとアニミズムの違い
シャーマニズムとは、精霊たちと交信できるシャーマンの存在で成り立っている宗教現象。それに対して、アニミズムはシャーマンを介さず、自然界のすべての事象に宿る精霊を崇拝してきました。
アニミズムの文化の中に、自然界の精霊や霊魂とコンタクトを取れるシャーマンが存在することも。
まったく同じ概念ではありませんが、重なる要素がいくつもあり非常に密接な関係の土着信仰です。
シャーマンに女性が多い理由
シャーマンは女性であることがほとんど。一般的に女性のほうが男性よりも感覚的であり、霊感能力が高いとされています。
女性は男性の浮気にもすぐに気づき、勘がよいといわれるもの。
女性は抽象的な事象も感覚的にそのまま受け入れて伝達します。それを受けて男性が目にみえるよう論理的に可視化。男女の役割が効率的に機能していました。
理屈ではなく感覚で受け止める女性の感性が、シャーマンという役割には最適だったのです。
地域によっては、男性シャーマンのほうが多いことも。
シャーマンと巫女の違い?
「巫女」も広義の「女性シャーマン」として解釈できます。
もともと巫女は、神楽を舞ったり祈祷したりするうちに神霊が憑依し、神託を告げる役割を担ってきました。イタコやユタなども巫女の一種。
現在では神社において神職の補佐を務めるケースがほとんどです。
シャーマンの5つの特徴
1.霊媒体質である
霊媒体質とは、知らないうちに霊を引き寄せてしまう体質。
日頃から心霊現象を体験したり、原因不明の体調不良がひんぱんに起こったりする人はシャーマンである可能性があります。
なんらかの予兆を感じ取ったり、透視能力を授かったりするケースも。
2.重い病から奇跡的に回復したり、精神的な病を患ったりしたことがある
シャーマンになるには、「死と再生」を経験することも。
シャーマン病ともいわれ、病にかかってから突然シャーマンの道に目覚める人もいます。症状には個人差があり、思春期に発症するケースがほとんど。
シャーマニズムでは、シャーマンになることを神に命じられた証といわれています。
3.自然や動物と深くつながっている
シャーマンは自然や動物と通じ合う感覚をもっているもの。
動物と対話したり、植物の声を聞いたりすることで神からのメッセージを受け取っているのです。
自然や環境にとても敏感であり、動植物からの声が聞こえるのなら、あなたの内なるシャーマンが目覚めつつあります。
4.幽体離脱をしたり、明晰夢をみたりする
シャーマンは幽体離脱をしたり、鮮明な夢をみたりします。
夢を通じて別次元に出かけ、情報やメッセージを得て戻るのが「シャーマニックジャーニー」。シャーマンにとって夢は非常に大切な情報源。
夢が鮮明だったり、明晰夢をみたりできる人はシャーマンの素質があるといえます。
5.自分の中のシャーマンがよび起こされる感覚がある
シャーマンの能力をもつ人は、あなたがシャーマンであることをほかのシャーマンから知らされることがあります。あるいは、夢の中で告げられるケースも。
自分がシャーマンであることに気づくまで、さまざまなシャーマンがあなたの前に現れ、道筋を示してくれることも。
感じ取る能力にすぐれているので傷つくこともありますが、その高い感受性こそがシャーマンにとって必要な素質なのです。
まとめ
シャーマニズムについてくわしく考察してみると、たいへん奥が深いことがわかりました。
シャーマンは病や悩みを抱える人々を助け、生活していくうえで非常に頼もしい存在。時代がくだるにつれその形態は姿を変え、数が減少していきます。しかし、古代から受け継がれた大切な信仰が、今も世界の各地で受け継がれているのです。
大切なシャーマンの系譜が、これからも後世に残されていくことを祈って。